2008年04月08日

戦争防ぐために戦史を学べ

◆日本には戦略がない

 日本が抱えている困った宿弊の一つは、昔も今も、戦略がないことだろう。とりわけ能天気ぶりを露呈しているのは日本外交だ。たとえば対中国外交などはそのサンプルといっていい。

 中国の対日姿勢はいまは薄気味悪いほどの微笑外交だが、一時期は意図的な「反日」をあらわにした。それは外敵を作って民族の求心力を高めようという作為の内政工作だったのだ。にもかかわらず相手の真意を見抜こうとせず、わざわざこちらから「靖国へは参拝しない」などと宣言する一国の首相がいたのだから、無思慮、無定見としかいいようがない。

 戦略不在は日本の悲しい習性ともいえそうだが、歴史の悲劇=戦史の研究を通じて戦略的思考力を磨き、最適の戦略をたてようと勉強しているグループがある。評論家の北岡俊明氏(63)が主宰する「戦史研究会」(TEL03・3441・8120=日本ディベート研究協会)だ。メンバーは普通のサラリーマンやビジネスマンや自営業といった人たちである。

 戦史を学ぶというと、すぐ好戦的だとか、侵略を肯定するのかとか目くじらを立てて短絡視する人がいる。そういう人たちは、たとえば「戦争」の2文字を頭の中からはじき飛ばせば、おのずと「平和」がやってくると考える太平楽な一派だろう。この研究グループはそういう連中ではない。「戦争を防ぐためには戦争を学ばなくてはならない。そのために必須のものが戦史の勉強だ」(北岡さん)と考える人たちなのである。

◆山本五十六の限界

 一月、この研究会が「戦史と経営戦略」をテーマにした論文を発表した。異論がでることを百も承知で、あえて論文の一部をご紹介してみよう。

 まず主宰・北岡さんは、人間の創造力と独創力、科学と技術を結集したものが戦争であり、戦争から得られる教訓は無限であると規定する。

 戦前期日本の戦略的失敗は、アメリカを仮想敵国にしたことだった。ハワイ作戦の真珠湾攻撃では、山本五十六の戦略家としての限界が露呈していた。というのは日米戦争は、連合艦隊同士が決戦して雌雄を決するという日露戦争型の戦争ではなく、国家と国家が全力でたたかう国家総力戦だったからである。山本五十六という海軍の軍人の能力をはるかに超える政治的戦略を必要とする戦争だった。山本は、太平洋と大西洋をにらんで地球的規模の発想ができる戦略・政略家ではなかった。なぜ身体を賭けて山本作戦に反対する人がいなかったのか。

 イフの仮説を構築する。もし真珠湾攻撃のさい、少なくとも石油タンクと機械工場と工廠(こうしょう)施設を破壊していればアメリカ太平洋艦隊は動けず、ミッドウェーとガダルカナルの敗北はなかったろうと北岡さんは推測する。

 「歴史を勉強してわかることは、わたしたちの父や祖父たちの偉大さです。すごい戦争に敗れたのだということです」とこの人は述懐するのである。

◆東芝とガダルカナル

 2月19日、東芝は新世代DVDの独自規格「HD DVD」事業から全面撤退すると発表した。この“DVD戦争”は世間をにぎわしたが、同研究会ではすでに数カ月も前から「戦史と経営戦略」で取り上げていた。会員、青木恒さん(36)=原子力企業勤務=の「東芝はガダルカナルの失敗を繰り返すか/次世代DVD規格をめぐる激闘の行くえ」である。

 東芝は1月6日、次のような見解をだした。「HD DVDは死んだなどと一部でいわれているがそんなことはない。プレーヤーのマーケットシェアでは勝っており、ベストフォーマットだ」

 これはミッドウェーで敗れた日本海軍、ガダルカナルから撤退した日本陸軍のいいわけと全く同じだという。そしてミッドウェー海戦を計画、推進した先任参謀・黒島亀人大佐や、ガダルカナル撤退進言を拒否した大本営参謀本部作戦課長・服部卓四郎大佐および進言を一喝した作戦班長・辻政信中佐の罪と責任を論じている。

 しかし東芝は苦渋の決断のすえ半導体など成長領域への投資増を発表。市場はこれを好感して株価はむしろ上昇した。同研究会は事態を先どりしていたといえる。

 いまイージス艦「あたご」の漁船衝突が問題になっているが、「日本海軍の隠蔽(いんぺい)体質と現代企業」長谷川賢二さん(42)という論文も。また「経営改革と戦史の教訓」押田信昭さん(61)、「戦略なき森づくりは国土を亡(ほろ)ぼす」正木隆さん(43)という提言もある。

 戦略的思考は企業の経営に必要なだけではない。外交や防衛、いや国家の存立そのものに不可欠である。

 (いしい ひでお=論説委員)産経新聞2008.3.1
posted by ディポ at 23:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 軍事・外交 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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