2008年05月03日

「韓国の敵は米国」に衝撃受け教科書執筆

金忠培(キム・チュンベ)陸軍士官学校校長インタビュー

 2004年1月、金忠培(キム・チュンベ)陸軍士官学校校長(写真)はあきれ返った。陸軍士官学校(陸士)に入学する仮入校生250人に無記名式のアンケートを実施したところ、「韓国の敵はどこか」という設問に対し約34%が「米国」と答え、「北朝鮮」という回答は33%にとどまった。「将校になろうと士官学校に志願した陸軍士官学校生がこれとは…」。ところが同年、国防部政訓企画室(教養・広報担当部署)が行った「入隊将兵意識性向調査」ではもっとあきれた回答が多数あった。75%が反米感情をあらわにし、「自由民主主義体制は優れている」と考える将兵は36%だった。

 なぜこんなことになったのだろうか。金校長は陸軍士官学校生たちと面談し、その理由を分析した。すると「全教組(全国教職員労働組合)の教師にそう学んだ」と答える陸軍士官学校生が多かった。西ドイツに出稼ぎに行った韓国人炭鉱員やベトナム戦争の韓国兵、中東に行った出稼ぎ韓国人労働者について金校長が話そうとすると、「何のことか分からない」と目をパチクリさせた。こうした史実については学校で習っていなかったのだ。

 最も多くの学校が使用しているという金星出版社の教科書『韓国近・現代史』を読み、金校長はさらに驚いた。「北朝鮮は軽く批判するふりをしながら、自由民主主義体制を非常に否定的な視点で解釈していたのです」

 「これではいけない」と判断した金校長は自ら立ち上がった。校内の講堂に陸軍士官学校生を集め、質問を投げかけた。「大韓民国の将来を担う皆さんは、50代や60代の人々が味わったつらさをどれだけ知っているのか」。金校長は悲壮だった。「1960年代に西ドイツで死体洗いをした看護士や、地下1000メートルで汗を流した炭鉱員たちのおかげで、今日の韓国は豊さを享受できるということを知っているのか」。「涙の講義」は続いた。時折、講堂のあちこちからむせび泣く声も聞こえてきた。金校長の講演内容は「陸士校長の手紙」という題名でネット上に広まった。

 だが、それだけでは足りなかった。大韓民国と韓国軍の伝統性に対する自負心がなければならなかったからだ。陸軍士官学校生はもちろん、軍の将兵全員を教え直さなければならなかった。金校長は決心した。「まともな現代史の教科書を作ろう」。そして当時の゙永吉(チョ・ヨンギル)国防部長官にこれを報告した。「予算が1億ウォン(約1050万円)必要です」。するど長官が答えた。「それほど重要なことなのに1億ウォンで足りますか。2億ウォン(約2100万円)の予算を組みましょう」

 安東大学の金喜坤(キム・ヒゴン)教授、誠信女子大学のキム・ヨンホ教授、韓国学中央研究院の李完範(イ・ワンボム)教授ら8人の専門家からなる「将兵精神教育発展研究委員会」が執筆作業に取り掛かった。普通の教科書の範囲をはるかに超え、争点になる部分を中心にかなり専門的なアプローチを試みた。植民地近代化論を批判し、独立運動の歴史を強調、大韓民国の民族史的伝統性をはっきりとさせた。6・25(朝鮮戦争)が始まった原因が北朝鮮とソ連にあることを明示し、戦後の経済発展の意義を重要視した。その一方で1961年5月16日に朴正煕(パク・チョンヒ)少将(後に大統領)らが起こした事件を「軍事クーデター」と表現、「軍人自身が政治軍人として登場するとき、その人はもう真の軍人でなく、自ら政治集団の一部になっているのだ」という言葉も忘れずに書き入れた。

 それから1年後。軍の「新教科書」執筆作業も追い込みに入ったころ、国防部長官が尹光雄(ユン・グァンウン)氏に変わった。ところが完成直前の2005年2月に予想外の出来事が起きた。長官に「精神教育資料を作成している」と報告すると、「執筆が終わったら将兵には配布せず、陸軍士官学校生の教育に限り使用せよ」と命令された。数カ月後、やっとの思いで『史実から見た韓国近・現代史』という題名の陸士内部向け教材を出したが、士官学校以外では手に入れられなくなってしまった。「教科書フォーラム」(共同代表:朴孝鍾〈パク・ヒョジョン〉ソウル大教授、李栄薫〈イ・ヨンフン〉ソウル大教授、車相哲〈チャ・サンチョル〉忠南大教授)の『代案教科書 韓国近・現代史』(カパラン社刊)が発行される3年前のことだ。

 現在、韓国国防研究院長を務めている金忠培氏は「その理由は今も分からない」と話す。金氏は「今の若い世代は賢く実用的な考えを持っている。大人が間違ったことを教えただけだ。大韓民国の未来は決して暗くはない」と語った。金氏が講堂で教えた陸士第64期生は先月任官した。尹光雄前長官は3日、電話インタビューに応じたが、教科書の出版保留について「そんなことがあったかどうか、よく覚えていない」と答えた。

兪碩在(ユ・ソクジェ)記者 朝鮮日報 2008.4.20 転載

posted by ディポ at 19:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 軍事・外交 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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